廃業寸前の危機をSNSで乗り切ってアイドルとのコラボまで実現した和菓子店が、今度は書籍を発行! 危機をチャンスに変えるノウハウとは?
- 2024/11/27
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ここ数年、SNSで話題をさらっている和菓子の存在をご存じだろうか。それは『鯱もなか』。勘のいい人なら、鯱(しゃち)の文字を見ただけでお気づきだろう。そう、これは名古屋のシンボル・金のしゃちほこをかたどった、名古屋発祥のもなかだ。その始まりは古く、鯱もなかを製造・販売する「元祖 鯱もなか本店」の創業は1907年(明治40年)。実に100年以上にわたって鯱もなかは作り続けられ、現在は創業者のひ孫にあたる女性が四代目を継いでいる。ではなぜ、この鯱もなかが話題なのだろうか。同店の専務取締役に話を聞いた。
潰れかけていた老舗が、わずか数年で見事復活
名古屋のシンボルをモチーフにし、100年以上もの長い歴史があるといえど、ほんの数年前までは地元でもあまり名前が知られていなかった鯱もなか。さらにそれに追い打ちをかけるかのように、世界を襲ったコロナ禍での売り上げ激減で先代(現社長のお父さん)は廃業を決断するまでに追い込まれていたという。そこまでどん底にあったはずのお店が、今や業績はV字回復、地元ラジオ局ではオーナー番組を持つまでに躍進し、なおも多くのファンを獲得している。その原動力になったのはSNS。そして、それを一手に担っているのが、ひとりの元バンドマンの男性だ。
その男性の名は古田憲司。元祖 鯱もなか本店の専務取締役で、四代目社長 古田花恵さんの旦那さんだ。今の物腰柔らかく柔和な顔つきから想像できないかもしれないが、大学時代から音楽にのめり込んだ憲司さんは地元パンクバンドでベース&ボーカルを担当し、インディーズレーベルからCDをリリースするほど精力的に活動していたそう。大学卒業後はいくつかの企業でサラリーマンを経験し、不動産業で起業経験もある憲司さんは、三十代半ばで夫婦揃って和菓子店を継承。だがそれは、廃業を決め込んでいた先代によって、すでに多くの取引先にその旨の挨拶が終わっているという最悪の状態でのスタートだった。その時、四代目夫妻に不安はなかったのだろうか。
「最初は、あるものを引き継ぐという感じではなかったのでプレッシャーはなかったですね。本当に店をたたむ段階だったので。お店はあるけどお客さんは来ないし、作る量もすごく少なかったし。ただ、100年以上続く歴史を終わらせてはいけないという気持ちはありました」と憲司さんは語る。
四代目夫妻がお店を引き継いだのは、コロナ禍真っ只中の2021年1月のこと。専業主婦から社長になった妻の花恵さんは就任すると新商品開発のために製菓の専門学校に通い始め、夫の憲司さんは専務として花恵さんを支えつつ、経営方針などを固めるための黒子に徹することに。
SNSが引き寄せた、アイドルとのまさかの展開
「街外れの店舗なので、基本的にフラッとやって来るお客さんはいない」と気づいた憲司さんは、まずECサイトの強化に取りかかり、次いで各SNSのアカウントを開設。これが、その後の大躍進の原動力になった。そして転機は突然訪れた。『Yahoo!ニュース』のトップで取材記事が取り上げられたのだ。掲載からわずか一晩で公式LINEの登録者数は300人以上増加し、3日間でオンラインショップには1000件近くの注文が。そして、100人に満たなかったXのフォロワー数は今や5万5000人を超えたという。また、このXの存在は後にさらなる展開を生むことになる。
それは店内にイートインスペースを設けるための資金の一部を、クラウドファンディングで募った時のこと。プロジェクト終了まで残すところ3日と迫り、目標金額300万円まで残り90万円の壁が越えられずに「お願いします」とXに大量ツイートしていた憲司さん。すると、それを引用して呟かれた「SHACHIの出番だと思うんだ。」というツイートが。ももクロやエビ中の妹分としてデビューした愛知県出身のアイドルグループ『TEAM SHACHI』のファンが呟いたこのツイートをきっかけに、なんと本物のアイドルと接点ができた街外れの潰れかけの和菓子店は、見事クラファンの目標金額を達成。その後もコラボ商品の販売やSKE48メンバー出演の冠ラジオ番組のスタート、さらにはももクロのアルバムでのコラボ企画参加など、Xをきっかけに信じられないような怒涛の展開が巻き起こったのだ。
店内に飾られたTEAM SHACHIからのメッセージ。「こんなことってあるんだな」と憲司さんもびっくり。
こちらは今年4月からCBCラジオでスタートした『SKE48 中坂美祐の元祖鯱もなかさかラジオ』に出演している中坂美祐さんからのメッセージ。
そして行き着いた先は著書発売 一躍文化人に
2021年1月の事業承継からわずかの期間で、ここまでの成果を上げてきた花恵さんと憲司さん。だが、この夫婦の快進撃はまだまだ止まらない。明日11月28日には、なんと憲司さんが執筆した書籍まで発行されるのだ。「文章を書くのって、けっこう好きなんです」なんて憲司さんは軽く言うが、これがプロ顔負けの出来栄え。記者も事前にゲラを読ませていただいたが、これは街の和菓子屋さんがなんとなくノリで出してみました的なものではなく、実体験をもとにしたドキュメンタリーであり、ビジネス書としても十分に通用する指南書でもあると感じた。そして、みんな大好きな鯱もなかを話の中心に持ってきてテンポよく書かれているので、とにかく読みやすい。読むのが早い人なら、おそらく通勤電車の中で2日もあれば200ページ超の一冊を読み終えてしまうのではなかろうか。ただ話の内容があまりにも浮世離れしていて、まるで小説のようなので、熱中しすぎて乗り過ごしに注意されたし。
『鯱もなかの逆襲』古田憲司著
発売日:2024年11月28日
発行元:ONE PUBLISHING