福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト(ハマカル)×東京国際映画祭トークセッションに、のん、犬童一心、山田洋次が登場! 「福島浜通りの今と未来」を語る

「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト(ハマカル)× 東京国際映画祭スペシャルトークセッション 〜福島浜通りの今と未来〜」が10月28日に東京・日比谷のBASE Q HALL1で開催され、映画監督の犬童一心、俳優・アーティストののんらが登壇。さらにスペシャルゲストとして映画監督の山田洋次も登場し、福島・浜通りへの思いを語った。ここではトークセッションの一部を抜粋しながら会場の様子をお伝えしよう。

スペシャルゲストに『男はつらいよ』の山田洋次監督が登場!

東京国際映画祭のプログラムの一環として今回のスペシャルトークセッションを開催した「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト」(以下、ハマカル)は、映画をはじめとする「文化・芸術」を通じに東日本大震災被災地域の新たな魅力創出を目的に、経済産業省の若手有志によって立ち上がった取り組み。2022年7月に始動後、今年度は同省内に「福島芸術文化推進室」を新設して、フィルムコミッションの設立や後述する「アーティスト・イン・レジデンス」など活動をより本格化させている。

この日のトークセッションの登壇者は、犬童一心(映画監督)、のん(俳優・アーティスト)、小川真司(映画プロデューサー)、渡部亮平(映画監督・脚本家)、山戸結希(映画監督)の5名。

冒頭では、西村康稔経済産業大臣のビデオメッセージと、犬童・小川・渡部・山戸が参加した福島・浜通りへの視察旅行をまとめた記録映像の放映に続いて、映画『男はつらいよ』シリーズなどの監督として知られ、ハマカルの活動に賛同する山田洋次がスペシャルゲストとして登壇。

最初にハマカルの話を聞いた際に「プロジェクトの作られ方がとてもいい」と感じたという山田監督は、その理由として「経済産業省の若い世代がそれぞれの部署、専門を問わずに横の繋がりで集まってチームを作っている」ことを挙げ、「組織の中で上位下達の形で事業が展開されるのではなく、“運動”として起こっているところが興味深かった」とコメント。その上で「僕たちをはじめ、大勢の映像関係の人が参加して、どんどん予算を増やしていく必要がある」と言い、「逆に言えば、経産省でこの運動を始めた人たちを僕たちが支援し、応援していかなければ」と述べてハマカルのさらなる発展にエールを送った。

福島・浜通りのために、映像・映画の力ができることとは?

トークセッションの前半は、「福島・浜通りのために、映像・映画の力ができること」をテーマに、まずは「福島・浜通りを訪れた時の印象」という話題からスタートした。

ここで最初に指名された山戸は、視察旅行の中で20代の若者たちと話したエピソードを紹介しながら「皆さん(地震直後のことを)刻々と語られるのですが、なかには『でも、あの時どうなっていたか、結構忘れていることもあるんですよ』とおっしゃる方もいて…。それを聞いて、(3.11から)12年という時が経つ今だからこそ、当時10代で社会に向けて語ることができなかった人たちの声を記録していく必要があるのではないかと思った」と発言。

一方で、渡部は「僕はこれまでそこ(震災)に触れないままきていたので、自分が扱っていいのか触れていいのか、とても高いハードルを感じていた」と本音を吐露。その上で、今回の視察を経て「ニュースやドキュメンタリー映像を見て、頭では理解できていたつもりでも、やはり現地に行かないとわからないことがたくさんあった。いろんな刺激を受けて、この先、浜通りにどんどん関わってもいいかもしれないと思える体験になった」と述べた。

続いて「映画の力が浜通りのためにできること」に話題が及ぶと、ここでは小川が自らのプロデュース作で、被災地が物語の舞台のひとつである映画『浅田家』のエピソードを交えながら
「(岩手県野田村で撮影した)『浅田家』は公開が終わって2年以上経つのですが、地元の人たちが毎年自発的に上映会を開いている。自分たちの映画だと思ってもらっていて、それが町の活力のひとつになっています。映画というのは集団じゃないとできないものもあって、福島で映画人が作品を撮ることになれば福島の人たちも参加することができる。自分が参加した映画を自分たちの文化的な財産と感じて長く見続けるみたいなことができたらいいんじゃないかな」と発言。

また、犬童は同じ話題に対して、「浜通りというのは特別な場所だから、その特別さにフォーカスして日常にカメラを向けるというやり方もあるだろうし、作り手の特性を生かしてそれぞれの感じ方で浜通りを撮っていくというやり方もあると思う。いずれにしても、浜通りの風景が作品の中に自然な形で記録されていく形になればいい。あえて言えば、その中には浜通りが舞台じゃなくても浜通りで撮影している作品というのがあってもいいと思う」と述べて、被災地関連以外のロケ地としての浜通りの魅力にも言及した。

映像のプロが見た「アーティスト・イン・レジデンス」の可能性

後半は「アーティスト・イン・レジデンス」をテーマにした話題に。
「アーティスト・イン・レジデンス」とは、アーティストがある土地に一定期間滞在し、その土地からインスピレーションを得た作品作りを行う制作手法のこと。今回登壇した、のんは、初監督作で脚本・主演も担当した映画『おちをつけなんせ』でこの手法を用い、岩手県遠野市に滞在しながら作品を制作した。

撮影のために半年近くを遠野で過ごしたという、のんは、「滞在するうちに遠野にどんどん思い入れができて、この先も無視できない場所になると感じた」と当時を回想。さらに「あの頃は東京へ“出稼ぎ”に行くみたいな感じだった」と語って会場の笑いを誘いつつも、地元の語り部や高校生ら地元の人々との交流を通じて、「アーティスト・イン・レジデンスで地元を盛り上げるというパワーを感じた」と遠野での生活を振り返った。

福島・浜通りでもアーティスト・イン・レジデンスの実施が現在検討中だといい、その後はこの取り組みに対する意見交換が行われた。

この中で渡部は「(アーティスト・イン・レジデンスを)紹介制にしてみたら?」と提案。「例えば、自分が作品を作ったら、次は自分の知っている作り手の中から『この人に任せたら何を作るんだろう』と思う人にその場所を紹介する。そうしたら僕が今回、犬童監督に声をかけてもらって福島に関わりを持つことになったように、今まで浜通りに関わるタイミングを見出すことができなかった人に関わるチャンスが訪れる。そこから、これまでとは違うものが生まれる可能性もあるのでは」と自らのアイデアを語った。

一方で、犬童は「アーティストが来て、何かそこに関する作品を作る時には、その場所を紹介する人が重要」と語り、「自分のピントを押し付けないで、『この人に会ってみるといいよ』とか『ここに行ってみるといいよ』とか、『この人の話の話は聞いた方がいい』みたいに、作家にとって興味深い視点を自然と広げてくれる人の存在が大事」とコメント。また、「来た人たちが地元の人とちゃんと関わる場を作る。例えば、映画作家の人が来たら、中学生や高校生に映画の作り方を教えるワークショップを開くとか。地元の人と作家が関わりやすい体制を作っていかないと、将来的に長い眼でみた時に成果に繋がっていかないと思う」と持論を述べた。

最後に改めて福島・浜通りやハマカルへの思いを尋ねられ、「今回の視察旅行は一人の人間としても本当に貴重な時間になりました。今回、福島と関われたことを自分自身の創作に必ず活かしていきたいと思っています」(山戸)、「このプロジェクトで福島の浜通りに希望が差すところを見られたらいいなと思いました。素晴らしい作り手の皆さんが参加されているので、私も見守りたいです」(のん)、「行けば必ず何か刺激を受ける場所だと思うので、映画を作らない人でもぜひ一度行ってみてほしい」(犬童)など、それぞれの言葉で語った5名。

このトークセッションは会場以外にオンラインによるライブ中継でも多くの観衆を集めた。東日本大震災から12年が経ち、時とともに記憶が薄れていく側面もある中、映像のプロの眼で見て、感じた彼らの語る「福島・浜通りの今」は、多くの人たちに被災地へ再び思いを寄せるきっかけを与えたことだろう。

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