クリナップと武蔵野美術大学の産学共同研究、移動式の次世代キッチン『モビリティキッチン』のプロトタイプを発表

クリナップ株式会社は2024年3月7日(木)、武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパスにて「未来キッチンプロジェクト」産学共同発表会を開催し、プロジェクトで研究を進める「次世代キッチン」のひとつとして、電気・水道が無い場所でも調理可能な『モビリティキッチン』のプロトタイプを発表した。

“脱LDK”をテーマに掲げる「未来キッチンプロジェクト」

はじめに、クリナップ株式会社 代表取締役 社長執行役員 竹内宏氏が登壇し、「未来キッチンプロジェクト」の概要と意義を説明。同社は2019年より武蔵野美術大学と産学共同で未来キッチンのビジョン研究を開始し、キッチンが様々な社会課題へ貢献する可能性について模索してきた。ビジョンの事業化を実現するため、2023年2月に竹内氏がプロジェクトリーダーを務める「未来キッチンプロジェクト」を発足。キッチンを通じて生活、社会、地球が豊かになることを目指し、最初のテーマとしてキッチンの“脱LDK”を掲げた。そのきっかけはコロナパンデミックによるライフスタイルの多様化が加速したことと、自然災害の増加。LDKの中で固定されたキッチンをもっと自由にすることで、未来のライフシフト対応や災害支援に貢献できるのではないかと考えている。竹内氏は「キッチンというものはまだまだ皆様の生活や社会を良くできる可能性に満ちたものだと信じている。2030年までに次世代キッチンを事業化し、皆様に貢献できる未来を切り開いていく」と今後の展開を宣言した。

次に、武蔵野美術大学 ソーシャルクリエイティブ研究所 所長 若杉浩一教授が登壇。武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパスでは、芸術やデザインをベースに社会にイノベーションを起こしていく人材育成を目指し、大学での学びと社会の連携を持たせるリアリティある授業や様々なカリキュラムを作る上で、同研究所は行政や企業と様々な実践的な共同研究を行っている。その中の1つである自律協生社会の実践研究について触れ、「これから重要になってくるのは、主体的に社会に関わり、社会というものが自分事化されていく人たちの集合体の中から新しい価値や共同体が生まれていくこと。人間が人間として、豊かに社会を支えていく繋がりの基盤となるのが“共に食べる”ということだと思っている。キッチン、ご飯を食べるというポイントの可能性が高まっていき、社会を構築する、あるいは共同体を生んでいくという意味で重要なテーマではないか」とこのプロジェクトへの期待を述べた。

産学共同でのビジョン研究と実証実験を経て、『モビリティキッチン』のプロトタイプが完成

続いて、クリナップ株式会社 常務執行役員 開発担当 藤原亨氏(写真左)と武蔵野美術大学 ソーシャルクリエイティブ研究所 特別研究員 山崎和彦氏(写真右)が登壇し「次世代キッチン」共同研究の経緯を振り返った。クリナップが2030年ビジョンを作る動きが始まった2019年と同じタイミングで、武蔵野美術大学ではビジョンをデザインする新しい学科が作られた。これをきっかけに産学共同研究「キッチンの未来ビジョンづくり」がスタート。「個人」「家族」「社会」の各シーンにおいてキッチンが貢献できる未来像を描いた。

これまで一般家庭を中心とした事業を行ってきたクリナップだが、議論の中で災害時など社会の危機に対応するというテーマの重要性に着目し、日常的な“いつも”の場面だけでなく、災害時のような“もしも”の場面の両立を考えていくことに行き着いたという。そしてキッチンが電気自動車や自動運転のように動くことで可能性が広がるのではないかと考え、『モビリティキッチン』の開発がスタートした。

2022年11月、千葉県の館山市にてはじめてのプロトタイプの実証実験を行い、その後議論や検証を重ねていった。

実験モデルの紹介

次に、クリナップ株式会社 開発戦略部 商品戦略課 課長 間辺慎一郎氏(写真左)と株式会社三美製作所 代表取締役社長 佐藤充壱氏(写真右)が登壇し、実験モデルの実証実験とろ過装置について説明を行った。移動式キッチンとして重要なポイントとなるのが水の給排水。館山市の実証実験で扱った移動式のキッチンは大きく、移動や設置に大きな負担があることから、ろ過装置を製作している株式会社三美製作所と共同開発し、装置の小型化に取り組んだ。

完成したのはボックスタイプとスタンドタイプ。ボックスタイプはクーラーボックス同等のサイズで、手軽に持ち運べ、内部にタンク、ポンプ、フィルターを搭載している。スタンドタイプは地面に直接置いて使う自立型のタイプ。スタンドタイプにはボックスタイプの構成にもう1つろ過フィルターを追加し、2つのフィルターが互いに洗浄し合う“逆洗浄機能”を搭載。本体内部でフィルターが自動洗浄されることによりメンテナンス性を高め、災害時などでも独立して長期間稼働することができるよう設計している。2023年12月、この実験モデルを野外に持ち出して実証実験を実施。株式会社ホンダアクセスの協力のもと、車両に実際に積み込んで、そこから荷下ろしと設営、その上での調理という一連の動作について検証を行った。この実証実験で、アウトドアシーンでは問題のないキッチンとしての使い方ができること、ろ過装置により気兼ねなく水が使えることを確認。「次世代キッチン」への転用を進めていったという。

『モビリティキッチン』プロトタイプの発表

屋外で使う想定の実験モデルを元に、「未来キッチンプロジェクト」で構想する移動するキッチンを組み合わせた『モビリティキッチン』プロトタイプが完成。

デザインを手掛けたクリナップ株式会社 開発戦略部 商品戦略課 主任 近岡咲氏は、『モビリティキッチン』プロトタイプのシンクユニットを手に持ちながら登壇し、女性でも持ち運びができるサイズ感をアピール。

今回発表された『モビリティキッチン』プロトタイプは、“逆洗浄機能”により長期稼働が可能な循環ろ過装置を搭載したシンクユニット、調理スペースと収納機能を持つワークユニット、バッテリー内蔵のIHコンロユニットの3つから構成され、メインキッチンとして使用できる性能を有している。また、家の中のあらゆる場所になじむよう、曲線のやわらかいラインとファブリック調のテクスチャで家中どこでも使いたくなるデザイン。積み重ねることでコンパクトにもでき、小型車両でも屋外に持ち運べるサイズになっている。

3つのユニットがそれぞれ独立し、生活に合わせて自由に動かすことができることを利点に、ソファで寛ぎながら食器を洗ったり、ベランピングを楽しんだりと『モビリティキッチン』での新しい生活のシーンを提案した。また、アウトドアにも気軽に持ち出すことができるほか、災害時には各家庭や企業で使用している『モビリティキッチン』を持ち寄って食の支援をする未来を想定。今後も商品化に向けてデザインと機能を進化させ、2030年までに事業として新しいライフスタイルの創出と災害支援に貢献することを目指すという。

次世代デザイナーによる未来の食生活研究発表

ここで武蔵野美術大学 ソーシャルクリエイティブ研究所 特別研究員 山崎和彦氏と共に、造形構想学部 クリエイティブイノベーション学科の学生である田村義希さん(写真中央)、横田爵巳さん(写真右)が登壇し、未来の食生活研究の取り組みを紹介。未来の食生活研究では、インタビューを通して家庭により全く異なる食事事情であることを把握し、120パターンの未来の暮らしの在り方“ライフスタイルシナリオ”を作成。その中で移動式キッチンによるライフスタイルの例として、「キッチンをジムに持ってきて、料理とダイエットを楽しむ」、「自分のキッチンを持ち寄ることを楽しむ」「災害時にもキッチンが移動するので安心」など、研究を通じて見出したキッチンの可能性を発表した。

「未来キッチン イラストコンテスト」最優秀賞授与式

次に、「未来キッチン イラストコンテスト」最優秀賞授与式が行われた。「未来キッチン イラストコンテスト」は「未来キッチンプロジェクト」の一環として昨年はじめて実施された。全国の小学生を対象に募集を行い、3,003作品が寄せられ、その中から最優秀賞が1作品、優秀賞が18作品選ばれた。また、応募のあった242校・団体の中から5校に学校団体賞が送られた。発表会では、最優秀賞に選定された千葉市立士気南小学校3年生の西岡蓮さんが登壇。西岡さんが描いたのはペットボトルなどのゴミを食べてエネルギーに変えて動く恐竜ロボット。背中の上では野菜などの生ごみを肥料にしておいしい野菜が育てられ、恐竜ロボットは食べ物が食べられなくて困っている人にそれを届けてくれるという。西岡さんは作品を描いたきっかけとして「これはニュースを見たときに、戦争している人たちがご飯を食べられなくて困っているのを見て、すごくかわいそうだなと思ってこの作品を描きました」とコメント。西岡さんには、作品をもとにプロジェクトメンバーが監修して作った立体モデルが記念品として贈呈された。「未来キッチンイラストコンテスト」は第2回の開催も予定しているとのこと。同社では子どもの斬新なアイデアを研究開発にも生かしていきたいと考えている。

『モビリティキッチン』プロトタイプのタッチアンドトライ

発表会の後半は、野外にて実際にプロトタイプのタッチアンドトライやホンダアクセスの車両協力で、次世代キッチン×クルマによる“脱LDK”を想定したデモンストレーションが行われた。

3つのユニットは積み重ねることができ、車の荷台にも収まるコンパクトさ。設置も置くだけと簡単。ユニットのサイズは持ち運びと調理を両立できる幅600㎜×奥行き480㎜、高さ200㎜に設定。

循環ろ過装置を搭載したシンクユニットの水の容量は1.5リットルで、移動先ではペットボトルから水を入れることを想定している。

タッチセンサーにより吐水・止水ができ、見た目も操作もスマート。

フィルターの耐久性についてはまだ検証中とのことだが、交換不要を理想としているようだ。また、水は飲用ではなく、手洗いや食器洗いに使用することを想定した水質となっている。

調理スペースと収納機能を持つワークユニット。

バッテリー内蔵によるIHコンロユニットは場所を選ばず調理できる。IHコンロの下もフライパンや鍋の収納スペースとなっている。

今回初披露された『モビリティキッチン』プロトタイプは、商品化の具体的なプランはまだ立っておらず、2030年までに事業化を目指し検証を進めていくとのことだ。家の中にある料理する場所=キッチンという固定概念を取っ払い、まさに固定せずにキッチンを自分が行きたい場所へ、必要な場所へ持っていける『モビリティキッチン』は、新しい暮らしの可能性を広げてくれるだろう。実現性に向けての期待が高まる。

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