「Sports Doctors Network Conference 2025」が開催! 各界のトップランナーがスポーツ医療の未来を語り合う
- 2025/6/26
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世界的スポーツチームのヘッドドクターらで結成されるSports Doctors Networkのカンファレンスイベント「Sports Doctors Network Conference 2025 in TOKYO ―最先端スポーツ医療を、すべての人へー」が、6月24日に東京・本郷の東京大学安田講堂で開催された。当日は室伏広治氏、山崎直子氏、成田悠輔氏、伊達公子氏、鈴木啓太氏ら日本のスポーツ界やその他各界を代表する著名人に加え、同団体をリードするノーベル財団理事長のカール・ヘンリク・ヘルディン氏やレアルマドリード・メディカルアドバイザーのミコ・ミヒッチ氏らが登壇。計6つのテーマで、スポーツ医療の分野だけに留まらない多彩なクロストークが展開された。
アジア初開催となる「Sports Doctors Network」のカンファレンスイベント
Sports Doctors Network(SDN)は、スペインサッカー界の名門であるレアルマドリードでメディカルアドバイザーを務めるミヒッチ氏が呼びかけ人となり、世界最高峰のクラブチームやナショナルチームで活躍する医師たちによって昨年7月に結成された組織だ。現在はさまざまな機関に対して医療に関する提言を行っているほか、FIFA本部やハーバード大学など、世界各地でカンファレンスを開催。また、医療界以外のトップリーダーたちとも関わりを深め、プロアスリートはもちろん、一般の人々の病気や怪我の予防に貢献する活動に取り組んでいる。

冒頭では東京大学の藤井輝夫総長が開幕の辞を述べ、アジアで初となる本カンファレンスの開催を祝福。その上で東大が行っているスポーツ医療とスポーツ科学に関する取り組みを紹介しつつ、「スポーツは多角的な視点から語ることができます。それはスポーツを研究の対象として捉えた時にも同様です」と述べ、「本日のカンファレンスでは、『最先端スポーツ医療を、すべての人へ』というテーマのもと、さまざまな話題を取り上げて議論するということで、私も大変楽しみにしております。議論が実り、大きなものになることを心より祈念しております」と期待感を示した。
スポーツ医療やサイエンスが開拓する新たな可能性
続く基調講演では、アテネ五輪男子ハンマー投げ金メダリストでスポーツ庁長官の室伏広治氏が、「国民のライフパフォーマンス向上に向けた取り組み」をテーマに講演。
スポーツ庁での職務やアンチドーピングに向けた取り組み、そしてスポーツ研究者としての研究内容など、始めに自らの現在の活動について述べた同氏は、次に41歳まで続けた現役生活を振り返りながらスポーツ医療に関するエピソードを披露。

「椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の影響で30代半ばを迎えた2009年に整形外科医から『これ以上現役を続けるのは不可能』と断言された」としつつ、「その際に理学療法士の方にも診断してもらい、解剖学的なアプローチで動きの癖やパターンを分析してもらったら、いろいろな問題が見つかりました。そして、その問題を解消して動きを改善したところ、37歳で再び五輪のメダルを獲ることができました」と当時を回想した同氏は、その経験から「やはり我々に分からないことはまだまだ多く、スポーツ医療やサイエンスが開拓する可能性は大きい」とコメント。また、テーマのライフパフォーマンスの向上については、潜在的運動能力を開拓するためにスポーツを行うことや、健康維持のために運動器系を鍛えることの重要性が論じられ、それにおけるさまざまな研究結果や取組事例が紹介された。
多彩な業種のトップランナーがトークセッションを展開
今回のカンファレンスでは、各界を代表する豪華ゲストが2、3名ずつに分かれ、計6つのテーマによるトークセッションを実施。異業種同士の立場からスポーツ医療や科学に関する議論を展開した。最初のセッションでは、ノーベル財団理事長のカール・ヘンリク・ヘルディン氏と経済学者の成田悠輔氏が登壇し、SDNの山田早輝子COOをMCに交えた3名で『Sports Doctors Networkとは 癌と食 未来をどう設計するか』をテーマにしたトークが行われた。
ここではまず、世界的な癌研究の権威でもあるヘルディン氏がノーベル賞の使命と生活の中に潜む癌のリスクについて解説。その上で山田氏から「癌予防に対して多くの知識がある中で、その知識を日々の行動に反映させるには何が必要か」という質問が飛ぶ。

これに対してヘルディン氏が「状況を改善するためには、科学的な知見を政治レベルで活用し、意識向上を促す必要がある」と答えると、その意見に成田氏が同調。「経済学者というと、市場が大切、自由意志が大切と新自由主義のようなことを唱える人が多いが、こと食や健康に関しては政治の役割が大きいと僕は考えている」と述べると、その背景として「喫煙や飲酒は体に悪いと思っても簡単にやめられない人が多い点」をあげ、「市場に任せて人々に判断を委ねてもうまくはいかない。税金を課すなどの制度無しで健康に突き進めるほど、人間は強くない」と持論を展開した。

一方で、現代の食と健康における課題として「健康に貢献する食品の効果が証明されるには長い時間を要する点」を挙げた成田氏は、「効果が実証された食品に証明を出す、治験のようなルール作りが必要だ」と提言し、最初のテーマから非常に鋭い議論が交わされた。
次のセッションには、SDN呼びかけ人のミコ・ミヒッチ氏と宇宙飛行士の山崎直子氏が登壇。A.T.カーニー日本法人代表の梅澤高明氏をMCに交えて、『エリートメディシンの一般活用と宇宙医療の未来』と題した対談が行われた。

ここでは山崎氏が宇宙飛行士の医療訓練や無重力下で起こる身体の変化、宇宙ステーションと地上で連携して行われている治療実験などについて語ったのに対し、ミヒッチ氏は3日に一度というハードスケジュールで試合に臨むレアルマドリードの選手たちの健康管理についての研究内容を紹介。欧州宇宙機関(ESA)での実績もあるミヒッチ氏は、「ESAでは衛星やロケットの研究をする科学者たちとの関わりが中心で、宇宙飛行士と直接話したことはないので今日は光栄です」とこの機会に喜びの表情を見せる。

その一方で、例えば文化的や宗教的な背景によっても選手ごとに異なる炭水化物の代謝についてなど、個人の身体の状態に合った栄養管理の重要性についてミヒッチが論じると、山崎氏は「宇宙食もすべてバーコードで管理されていて、地上のフライトディレクターや栄養管理士から足りない栄養素についてアドバイスを受けることはありますが、身体の状態というところまではしっかり連動できていないので、ミヒッチ先生が仰ることを非常に大切だと感じた」と述べ、強く感銘を受けた様子だった。
そのほか、元プロテニスプレイヤーの伊達公子氏らによる『キャリアを長く保つために、選手とチームドクターが果たすべき役割とは』、フリーアナウンサーの滝川クリステル氏がMCを務めた『睡眠とパフォーマンス』、世界最高齢の現役トライアスロン選手として知られる稲田弘氏らによる『歯学とパフォーマンス 105年生きるには』、元サッカー日本代表の鈴木啓太氏らによる『食とパフォーマンス「未病」の医科学から見た健康と食。腸内環境と健康寿命』のテーマでも各界のトップランナーたちから多彩な意見を聞くことができた。
歴史ある東大安田講堂で開催されたことでも注目を集めたアジア初の「Sports Doctors Network Conference」。医療という分野で繋がる世界的スポーツチームの連携が、プロアスリート、ひいてはスポーツを楽しむすべての人々の健康とパフォーマンスの向上につながることに期待したい。