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災害時に本当に使える通信とは? 職場で求められる機能と理解不足の現実

地震や豪雨などの自然災害は、予期せぬタイミングで私たちの生活を揺さぶる。日本各地で頻発する災害に直面するたび、社会全体で防災意識は高まり、家庭では非常食や防災グッズを備える動きが広がっている。しかし、防災は家庭だけの問題ではない。人が多く集まり、業務の継続性が求められる「職場」こそ、災害への備えが問われる場である。特に災害時に生命線となるのが通信手段だ。

災害直後は電話回線の輻輳やインターネットの途絶が生じ、必要な情報が届かず、従業員の安否確認や業務継続の判断が大きく遅れるリスクがある。BCP(事業継続計画)の観点からも、職場における通信の確保は喫緊の課題とされてきたが、果たして実際の現場ではどこまで準備が進んでいるのだろうか。その実態を探るべく、日常でも使える災害用無線機「ハザードトーク」(https://telenet.co.jp/hazardtalk/)を提供しているテレネット株式会社は、「災害時の職場の通信手段」に関する調査を実施した。

8割が「対策済み」と回答も、不安は残る

今回の調査では、まず職場の防災対策がどの程度行われているかを尋ねている。「十分に対策されている」と回答したのは54.7%で最も多く、「ある程度対策されている」が23.5%と続き、全体の約8割が一定の備えがあると認識していた。しかし「あまり対策されていない」16.6%、「全く対策されていない」5.2%と、依然として対策に不安を抱える職場も少なくない。

さらに、不十分と感じる分野についても調査が行われている。最も多かったのは「従業員・職員の訓練・意識啓発」で40.7%。備蓄や装備の準備が37.6%、避難誘導や安全確認のマニュアル整備が32.1%と続いた。また、「災害時用の通信手段の整備」も31.7%が不十分と感じており、安否確認の仕組み(28.5%)や、他機関との連携・ネットワーク(26.2%)も課題に挙げられた。
この結果から見えてくるのは、単なる備蓄や設備だけでなく、人の意識や訓練、そして情報伝達の仕組みが十分に整っていないという現状である。つまり「モノ」だけでなく「ヒト」と「システム」の両面で強化が求められているのである。

7割が導入済みも、満足はわずか4割弱

調査によれば、職場における災害時用通信手段の導入状況は大きく分かれている。「導入されており性能に満足している」と答えたのは37.3%であったが、「導入されているが切り換えを考えている」も32.5%に達し、導入済みの約7割のうち半数近くが満足していない状況にある。さらに「導入されていないが検討中」が17.2%、「導入予定もない」が13.0%と、未導入の職場も3割を超えている。

導入されている通信手段の種類を見ると、最も多いのは「無線機」で45.8%。次いで「衛星電話」が44.0%、「安否確認システム」が41.0%、「災害時優先電話」が33.5%、「MCA無線」が25.9%と続いた。通信手段の多様化は進んでいるものの、それぞれに特性と課題があり、単一の手段では十分ではないことがうかがえる。
つまり、形式的に導入は進んでいるが「使えるかどうか」「満足できるか」という点で大きな課題が残されているのが現状だ。通信手段を備えること自体が目的化してしまい、実際の運用や信頼性確保に結びついていない職場が多いことが浮き彫りとなった。

通信手段に求められる“実戦力”

通信手段に対して現場が最も重視しているのは、「災害時の通話の安定性」であった。47.6%がこれを選んでおり、緊急時に確実に繋がることへの強いニーズがうかがえる。続いて「リアルタイムでの位置情報共有機能」が37.7%、「グループ通話機能」が34.6%と、複数人で同時に状況を把握・共有できる仕組みが求められている。また、「災害速報受信などの即時性」(33.5%)や「バッテリーの持ち」(28.8%)といった、実用性に直結する要素も重視されている。さらに「写真・動画の共有機能」(25.8%)や「使用感が直感的で分かりやすい・使いやすい」(25.8%)といった回答も目立ち、日常業務での利便性や操作性がそのまま災害時の安心感につながることが示された。

これらの結果から、職場における通信手段は単なる緊急時の備えではなく、普段から使いやすく、かつ多機能であることが強く求められていることが分かる。

技術を“知っている”と“理解している”の間に壁

通信手段の導入や機能に関しては、現場での理解や情報共有の不足も大きな課題となっている。調査によれば、職場に「現状把握や情報共有に役立つ手段がある」と回答したのは47.0%にとどまり、「まだないがほしい」が39.7%、「ない」が13.3%であった。半数以上の職場で、情報共有の仕組みが不十分、あるいは導入自体が遅れていることが明らかになった。また、こうした機能を備えた災害時用通信手段の存在について「よく知っている」と答えたのは38.6%にすぎず、「聞いたことはあるが詳しくは知らない」が46.6%、「全く知らない」も14.8%に上った。つまり、名称や存在は一定程度認知されているものの、具体的にどのように活用できるのかまでは十分に理解されていない層が過半数を占めている。

この結果は、通信手段の普及を阻むのは単なるコストや設備面だけではなく、「知識と理解の不足」であることを示している。導入を進めても現場で使いこなせなければ意味がなく、日常的な周知や訓練が不可欠だと言える。

注目の衛星通信、理解はまだ浅い

災害時の通信手段として注目されている携帯キャリアの衛星通信サービスについても、その理解度には大きな差が見られた。「よく知っている」と答えたのは26.6%にとどまり、「一部知っていたが詳しくは知らない」が51.5%と過半数を占めた。さらに「全く知らない」が16.7%、「そもそも衛星通信サービス自体を知らない」も5.2%に上っている。

この結果からは、サービスの存在自体はある程度認知されているものの、具体的な仕組みや制約について理解が十分に浸透していないことが分かる。特に「接続が困難になる場合がある」といった利用上の注意点を把握している層は限られており、実際の災害対応で期待した性能を発揮できないリスクもある。つまり、通信手段の整備はハード面の導入にとどまらず、現場の担当者が正しく理解し、状況に応じて活用できる知識を持つことが不可欠である。認知と理解のギャップを埋めることが、今後の職場防災における大きな課題だと言える。

災害時に備わる“冗長性”という安心

災害時用通信手段に求められる機能や特徴として、最も多く選ばれたのは「災害時でも繋がりやすいこと」で50.0%に達した。通信の安定性が第一の条件であることが改めて確認された形だ。続いて「普段はスマートフォンとして使用できる」が35.8%、「複数の通信回線を使用できる」が29.3%と、日常利用と非常時の両立、そして冗長性への期待が高いことが分かる。単なる“防災専用ツール”ではなく、普段から使える機能を備えていれば操作に慣れやすく、いざという時にも即座に対応できる。さらに「グループ通話機能」(24.0%)や「大容量バッテリーの搭載」(22.3%)、「写真・動画・位置情報を端末間・管理画面で共有できる」(21.9%)といった項目も選ばれており、実務に直結する利便性や継続利用性へのニーズも強い。「エリアメールよりも早く地震・津波情報が入る」(21.5%)といった即時性の確保も重視されており、通信手段は単なる連絡ツールではなく“情報の基盤”として捉えられている。

このように、日常的に使え、かつ多様な回線や機能を組み合わせられる仕組みが、災害時の確実な対応につながることが示されている。

調査概要:「災害時の職場の通信手段」に関する調査
【調査元】テレネット株式会社(https://telenet.co.jp/)
【調査方法】インターネット調査
【調査期間】2025年8月13日(水)~2025年8月15日(金)
【調査人数】1,014人(①511人/②503人)
【調査対象】調査回答時に①企業・自治体の防災対策担当者/②企業の経営者であると回答したモニター
【調査パートナー】株式会社PRIZMA
【モニター提供元】PRIZMAリサーチ

「持っている」から「使える」へ

今回の調査は、職場における災害時通信手段の実態を改めて浮き彫りにした。導入そのものは進んでいるが、性能に満足している職場は4割に満たず、多くが切り換えや改善を検討している。さらに、現場では通話の安定性や位置情報共有、グループ通話といった実務的な機能が強く求められており、加えて日常利用との親和性や冗長性の確保も重要視されていることが明らかになった。

同時に、通信手段の存在を「知っているが詳しくは理解していない」層が多数を占めることからも分かるように、導入や整備だけでは不十分である。実際に使いこなすためには、従業員一人ひとりが知識を持ち、日常的に慣れておくことが不可欠だ。

防災における通信は、単なる備えの一要素ではなく、生命線そのものである。災害が起きた瞬間、職場の通信手段が機能するか否かで、安全確保や業務継続の明暗は大きく分かれる。いま必要なのは「持っている」から「使える」へと質を高めることであり、それこそが真に機能する職場防災への道筋だ。

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