50年・100年先の未来都市を構想する、東京都「東京ベイeSGプロジェクト」による最先端テクノロジーの展示
- 2025/12/21
- other

「東京ベイeSGプロジェクト」をご存じだろうか? これは「持続可能な都市を⾼い技術⼒で実現する」という「SusHi Tech Tokyo」の理念をもとに東京都が推進する、ベイエリアを舞台にした壮大なまちづくり構想だ。目指すのは、50年・100年先を見据えた「自然」と「便利」が融合する持続可能な未来の都市。最先端テクノロジーの社会実装を進め、気候危機を乗り越えるモデルケースを作ろうとしているのだ。
このプロジェクトが目指す未来像を発信するため、都は去る12月10日から12日にかけて東京ビッグサイトで開催された「SDGs Week EXPO 2025『エコプロ』」に出展した。会場には東京ベイeSGパートナー企業7社も集結。「再生可能エネルギーの活用」や「ケミカルリサイクル」など、都市課題の解決に寄与するサステナブル技術が披露された。はたして、どのような未来が描かれているのか。編集部もその熱気を感じるべく、会場へと足を運んだ。
「渋沢栄一と後藤新平」の意志を継ぐ未来都市
そもそも「eSG」とは何を意味するのか。単なる環境スローガンではないその深意について、東京都 スタートアップ戦略推進本部 東京eSGプロジェクト推進担当課長 齋藤 司氏に話を聞いた。
――まずは「東京ベイeSGプロジェクト」の概要について教えてください。
齋藤氏:「東京ベイeSGプロジェクト」というのは、東京のベイエリアを舞台にして、50年、100年先を見据えた「遠い未来の街」を構想するプロジェクトになっています。具体的には、中央防波堤エリアにある広大な埋立地をフィールドにして、最先端テクノロジーの実証実験を行い、実際に街への社会実装を目指していくという取り組みです。また、日本科学未来館の中に設置した「Tokyo Mirai Park」は、お子さんから大人まで幅広い方に未来の技術に触れてもらう発信拠点としての役割も担っています。
――プロジェクト名にある「eSG」にはどのような意味が込められているのでしょうか。
齋藤氏:eSGの「e」は、ecology(エコロジー)やenvironment(環境)、epoch-making(エポックメイキング)といった環境や革新的な技術などいろんな意味を振り当てることができますが、特徴的なのが「S」と「G」です。これは名前になっていまして、渋沢栄一(S)と後藤新平(G)、この2名がモデルになっています。
――ESG投資の略語かと思いきや、人物の頭文字とは驚きです。なぜこの二人なのでしょうか。
齋藤氏:両名とも明治から大正にかけて活躍し、今日の東京を作った人物だからですね。渋沢栄一は数多くの企業を設立しましたが、その根底には「会社だけでなく国民全体が豊かになる街を作っていこう」という理念が元々ありました。一方、元東京市長の後藤新平は、関東大震災からの復興において、焼け野原を単に元に戻すのではなく、将来どのような社会になっていくのかを見据えて都市計画を行いました。
両者に共通するのは、遠い未来に向かって街づくりをしたという点です。そうした先人の知恵を引き継ぐ形で、我々東京都も50年、100年先の未来をみんなで考えて作っていこう、そう考えて進めているのがこのプロジェクトなんです。

東京都 スタートアップ戦略推進本部 東京eSGプロジェクト推進担当課長 齋藤司氏。後ろはSDGs Week EXPO 2025『エコプロ』の「SusHi Tech Tokyo」ブース。
未来を実装する「東京ベイeSGパートナー」7社
会場には、プロジェクトの理念に賛同し、官民学連携で未来を創る「東京ベイeSGパートナー」企業が出展。各社が独自の技術を披露していた。

株式会社HelioX
太陽光で自家発電しながら走行できる次世代マイクロモビリティを展示。「充電」という概念をなくし、災害時の電源としても活用可能な「動く発電所」を提案する。
東亜道路工業株式会社
道路舗装路面に直接設置する「舗装式太陽光発電パネル」と、走行中のEVに給電する「走行中ワイヤレス給電舗装」を紹介。道路がエネルギーを生み出し、運ぶインフラへと変貌する。
アンヴァール株式会社
海水からCO2を回収・固定し、同時に水素とマグネシウムを生成する技術を開発。カーボンネガティブと資源循環を同時に実現する日本発のシステムだ。
Hundredths株式会社
全固体電池を搭載した次世代小型モビリティを展示。高い安全性と長寿命、急速充放電を実現し、過酷な気候でも利用可能な移動手段を提供する。
ウィンドリンク株式会社
風速を増幅させる「レンズ風車」により、微風でも効率的に発電する小型風力発電機。静音性が高く、都市部のビル屋上などでの活用が期待される。
AC Biode株式会社
焼却や埋立に頼らず、低温(約200℃)で廃プラや有機廃棄物を分解し、再び化学原料へ戻すケミカルリサイクル技術。触媒を活用し、環境負荷を低減する。
そしてもう一社、来場者の注目を集めていたのが、inQs(インクス)株式会社による「発電するガラス」だ。その革新的な技術について、inQs株式会社 取締役 事業本部 営業部 部長 中村陽和氏に詳しく聞いた。

「透明なガラス」が変える都市のエネルギー
――今回展示されているのはどのような製品ですか?
中村氏:今回展示しているのは「光発電ガラス」になります。一番の特徴は、光を得て発電できるという点ですね。それも、太陽光だけでなく、屋内の光であっても発電できるというのがすごく大きな特徴なんです。
――屋内の光でも発電できるというのは驚きです。どの程度の明るさが必要なんでしょうか。
中村氏:一応、200ルクス以上の光があれば電気は生まれますね。もちろんそれ以下でも実際は発電するんですが、標準的には200ルクス以上と言っています。例えば、今この会場の空間の電気が700から800ルクスくらいあるんですが、これなら全然クリアですね。
――一般的な太陽光パネルとは見た目が全く異なりますね。
中村氏:そうなんです。今の屋根の上に乗っている太陽光パネルや、最近出てきているペロブスカイトなどは、だいたい色が黒かったり線が入っていたりしますよね。でも、これには全くそれがないんです。可視光透過率も70%以上を保てるので、見た目はもうほぼほぼ透明ですね。
――どのような仕組みで発電しているのですか?
中村氏:太陽光などの光を受けた時に、赤外線と紫外線を電気に変えているんです。そういった意味では、紫外線をカットしている、要は遮熱効果がある製品なんですよ。「遮熱もあり発電もする」というのも大きな特徴ですね。
――具体的な用途としては、どのように使われることを想定していますか?
中村氏:まだ建材までの認可を取っているものではないので、今のところビルの外側のガラスには使えないんです。ですので、普通のガラスの内側に取り付ける形になります。断熱効果も取りたいので、既存のガラスと密着させずに若干浮かせて設置するようなイメージですね。あとは、屋内の電気でも発電するので、IoTセンサーの電源として使ったり、黙っていてもずっと充電できる環境を作ったりできます。
――東京都との連携も進んでいると聞きました。
中村氏:既存の家や古い建物って、重さの問題で屋根に太陽光パネルをつけられないことが多いんですよね。ところがこれだと、今ある窓ガラスの内側につけるだけでエネルギーを作ることができます。そういった活用を東京都の環境局の方とも一緒に考えさせてもらっています。都庁でも、まだ契約まではいっていませんが、今期中に一部納入させていただけるかなというところまでは来ていますね。

「未来の東京」はここから始まる
「50年、100年先の未来」というと、SF映画のような遠い世界の話に聞こえるかもしれない。しかし、「エコプロ」の会場で目の当たりにしたのは、海水からエネルギーを取り出し、道路が発電し、窓ガラスが電源になるという、確かな技術の実在だった。
渋沢栄一と後藤新平が描いた「みんなが豊かになる街」。その精神は、最先端のテクノロジーと結びつき、東京ベイエリアから新たな都市モデルとして結実しようとしている。環境問題という待ったなしの課題に対し、我々はどのような解決策を持てるのか。その答えのピースが、ここには確かに揃っていた。








