夏バテ?と思いきや実は貧血!?夏に貧血が起こりやすいわけとその対策とは?

今年もすでに各地で猛暑日を記録しており、厳しい暑さや梅雨の湿度の高さ、気温差で体の不調を感じている人も多いのではないだろうか。疲れやすい、無気力、立ちくらみやめまいなど、暑さで体力が消耗し、体のあちこちに感じる不調を総称して「夏バテ」と呼ばれている。しかしその不調、もしかしたら原因は「貧血」かもしれない。夏は汗で鉄分が流れてしまうため、特にスポーツをしている人や代謝が良い人は鉄分不足により貧血を起こすことが多いといわれている。貧血は夏バテと症状が似ていても原因や対処方法が異なるため、間違った判断により貧血と気が付かず放置してしまうことで、心臓や脳に負担がかかり心筋梗塞や記憶障害など、重篤な病気にかかってしまう可能性もあるため注意が必要だ。

そこで今回、静岡県立総合病院リサーチサポートセンター臨床研究部長 田中清氏の解説のもと、夏バテと貧血の違いと対処法、さらに貧血対策におすすめの栄養素である『鉄』『ビタミンB12』の効率的な摂取方法を紹介していく。

夏バテかと思ったら貧血の可能性も!夏バテと貧血の違いは?

夏バテは脳貧血による血流不足、夏の貧血は鉄不足による鉄欠乏性貧血が原因

暑さで体力が消耗し、体のあちこちに感じる不調のことを総称して「夏バテ」と呼ばれている。気温が高くなると私たちの体はその気温に適応しようと調整を試みるが、その調節が上手くいかなくなることによって疲労や体力低下を引き起こす。これが、脳貧血が原因による夏バテ。気温に適応するために、体温や血圧を調整する自律神経に負荷がかかることでバランスが崩れ一時的に血圧が低下、さらに血液を心臓に戻す機能が低下して脳に十分な血液が流れなくなることで起こる。また、猛暑が続くことで大量の汗をかきやすくなるが、汗をかくことでナトリウムやミネラルなどの栄養素が失われることも夏バテ状態を起こす原因のひとつ。急に立ち眩みが起きた場合は、可能であればすぐにあお向けに寝て足を上げ、頭が下がる体勢で安静にすること。寝転ぶのが無理な場合は、さっとその場で座って頭を低くすることが重要だ。

一方、「貧血」とは血液中の赤血球の数が少なくなった状態のことで、めまい、動悸、息切れなどの症状が現れる状態のことを差す。赤血球のなかにはヘモグロビンと呼ばれるたんぱく質があり、肺で受け取った酸素を全身に運ぶ役割を担っている。そのため、赤血球の数が減るとヘモグロビンの数も減ってしまい、酸素供給が不十分になってしまう。貧血により酸素が不足する分を補おうと心臓や肺が無理をすることで動悸や息切れを起こすのだ。また、赤血球の生産低下の原因として挙げられているのが、「鉄」や「ビタミン B12」、「葉酸」などの栄養不足。特に大量の汗をかくことで「鉄」も一緒に流れてしまうことから、この時期は鉄欠乏による貧血症状に悩まされる人が多いと言われている。

~貧血セルフチェック~

夏バテと間違いやすい貧血の症状。以下の貧血セルフチェックで、チェック項目が多かったり引っかかる項目がある場合は貧血の可能性も。早めに医療機関を受診しよう。

―貧血セルフチェック項目―
□めまいや立ちくらみがする
□吐き気を催す
□頭痛がある
□アルコールを飲むことが多い
□眠気を感じる
□顔色が悪く、冷える
□下痢が続く
□月経前、月経になると貧血を引き起こす
□爪が脆く、些細な衝撃で割れることがある

 

貧血の種類別の症状や原因、予防のポイント

脳や体全身に酸素が行き渡らなくなることが原因で、めまいや立ち眩みを発症する貧血だが、貧血にもさまざまな種類があり、その種類によって原因や対策方法が異なる。ここで、特に夏に発症しやすい「鉄欠乏性貧血」や高齢者に起こりやすい「巨芽球性貧血」における原因や対処方法を紹介。さらに、危険な病気が隠れている可能性がある消化管出血による貧血について説明する。

■「貧血」の主な種類と原因
・「鉄欠乏性貧血」:鉄分の欠乏によりヘモグロビンが十分作れなくなることで起こる
・「巨赤芽球性貧血」:ビタミンB12や葉酸の欠乏により赤血球が十分作れなくなることで起こる
・「再生不良性貧血」:血液を作っている骨髄が上手く働かないことで赤血球などの血球成分全部が少なくなる
・「溶血性貧血」:赤血球が早く壊れることにより起こる

主な貧血の原因である「鉄欠乏性貧血」

主な貧血の原因は鉄欠乏による「鉄欠乏性貧血」と言われている。基本的に、鉄は古くなっても再利用される為、減少することはほとんどないが、妊婦や授乳婦の方の鉄需要の拡大や、慢性的出血による鉄の喪失によって鉄不足が発生し、鉄欠乏性貧血を引き起こすことが多い。また、鉄は汗と一緒に流れてしまうため、特にこの時期や、激しい運動を行うアスリートの方は、鉄欠乏性貧血を起こしやすいと言われている。また、実際には慢性的出血が原因とした鉄欠乏性貧血が圧倒的に多く、閉経前の成人女性は月経により定期的に鉄を喪失するため、鉄欠乏状態になりやすく、およそ10〜20%の高い頻度で鉄欠乏性貧血を発症していると言われている。その為、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」において鉄摂取の推奨量(18〜49歳)は、男性が7.5mg/日に対して、女性(月経あり)は10.5mg/日と高めに設定されている。

ビタミンB12や葉酸の欠乏が原因の「巨芽球性貧血」

ビタミンB12や葉酸の欠乏により発症する「巨赤芽球性貧血」。酸素を全身に運ぶ役割を持つ赤血球を作るうえでビタミンB12や葉酸は必須の栄養素だが、様々な原因によってこれらの栄養素が不足する場合がある。特にビタミンB12は非常に吸収障害の起こりやすいビタミンといわれており、食品中のビタミンB12は胃酸・ペプシンにより食品から遊離し、内因子という胃から分泌されたタンパク質と結合して吸収されるため、ビタミンB12の吸収には胃の健康が不可欠。その為、胃切除後や、胃の健康状態が良くない高齢者の多くが食品からうまく摂取できずビタミンB12欠乏を起こしていると言われている。食事からの摂取が難しい場合はサプリからの摂取がおすすめだ。サプリのビタミンB12は最初から遊離されているので、大量に摂取する事で吸収率が低くてもある程度の量を摂取する事が可能。

極端な鉄減少は他の病気が隠れている場合も…「消化管出血による貧血」

前述したように、「鉄欠乏性貧血」は圧倒的に女性に多いが、男性患者において「鉄欠乏性貧血」を認めた場合には、がんや潰瘍による消化管出血など、隠れた基礎疾患を疑う必要がある。また、女性では子宮筋腫が隠れている可能性も。ほとんどの貧血は徐々に進行するので、本人が強く自覚症状を感じないこともある。その為、他の病気が隠れていた場合でも発見が遅れてしまう可能性があるので、定期的に血液検査を受け、少しでも気になる数値が出た場合は早急に医療機関で受診しよう。

夏の貧血対策に欠かせない栄養素『鉄』『ビタミンB12』の効率的な摂取方法

貧血の改善策として重要なのが食生活の見直し。ここからは、貧血予防のために摂りたい栄養素である『鉄』、『ビタミン B12』が含まれる食材や、効率的な摂取方法などを紹介する。

「鉄欠乏性貧血」の予防に欠かせない『鉄』

鉄は赤血球の材料になり、全身に酸素を運ぶ役割を担うミネラルで、不足することで貧血を発症する。体内には3〜4gの鉄が存在し、このうちの70〜75%は機能鉄と呼ばれ、赤血球中のヘモグロビンや筋肉中のミオグロビンというタンパク質の構成成分として体内に取り込まれた酸素を全身に運ぶ大切な働きがある。残りの25〜30%は貯蔵鉄として肝臓、脾臓、骨髄などに蓄えられ機能鉄が不足した際に使われる。

鉄が摂れる食材とおすすめの摂取方法

鉄には動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」の2種類がある。同じ鉄分でも、ヘム鉄と非ヘム鉄では特徴が大きく違うため、特性を理解して摂取することが重要。また、カフェインは鉄の吸収を阻害する可能性があるため、貧血気味の方は食中、食後のコーヒーやお茶を控えた方がよい。

<ヘム鉄>
レバーや赤肉、赤身の魚など、動物性食品に多く含まれる鉄分。ヘム鉄は、人間の体への吸収率が25%程と高い吸収率を促す。

<非ヘム鉄>
野菜や豆乳、穀物、海藻、卵、乳製品などに多く含まれる。非ヘム鉄は、吸収率は3〜5%程と、ヘム鉄よりかなり低いが、オレンジやキウイフルーツ、イチゴなどの果物や、パプリカやブロッコリーといった野菜など、ビタミンCを含む食品と一緒に摂ることで吸収率が高まる。

巨赤芽球性貧血の予防に欠かせない『ビタミンB12』

ビタミンB12は補酵素(酵素をサポートする成分)として、脂肪酸代謝、核酸代謝、葉酸の代謝に関わっている。さらに正常な赤血球の産生、脳神経および血液細胞など、多数の体内組織の機能や発達を正常に維持するために必要な栄養素。赤血球と同じ赤色をしていて、赤血球の形成を助ける栄養素として栄養機能食表示ができるビタミンである。

ビタミンB12が摂れる食材とおすすめの摂取方法

ビタミンB12を摂り入れるためには、日々の食生活にそれらを多く含む、さんま・さば・いわしなどの青魚や、あさり・しじみ・レバー・赤身肉・卵などを摂取するとよい。ビタミンB12は水溶性のビタミンのため、スープなどまるごと食べられる調理法や汁ごと使える缶詰などの利用が効果的。また、ビタミンB12は小腸で吸収される際に胃壁から分泌される「内因子」という物質を必要とするため、胃を切除された方、慢性的に胃炎がある方はこの内因子が不足することによって吸収されにくくなる。さらに高齢になると、萎縮性胃炎などで胃酸分泌量が低下していることが多く、食品中に含まれるビタミンB12の吸収率が減少するため、食事からの吸収が難しい場合はサプリメントの摂取もおすすめだ。

<解説者プロフィール>

静岡県立総合病院リサーチサポートセンター 臨床研究部長 田中清氏

~所属学会~
・日本病態栄養学会(学術評議員)
・日本ビタミン学会(理事)
・脂溶性ビタミン研究委員会(委員)
・ビタミン B 研究委員会(参与)
・日本栄養改善学会(評議員)
・日本骨粗鬆症学会(評議員)

~主な職歴~
・1977年:京都大学医学部卒業
・1977~1979:天理よろづ相談所病院 内科系研修医
・1983~京都大学医学部附属病院 医員
・1984~天理よろづ相談所病院 内分泌内科医員
・1984~1986:米国オレゴン大学医学部内分泌内科 Research Associate
・1986~1990:静岡県立総合病院 核医学科・内分泌内科 副医長 (1988 医長)
・1990~2000:京都大学放射性同位元素総合センター・京大病院 助手
・2000~2004::甲子園大学栄養学部 教授
・2004~2018:京都女子大学家政学部食物栄養学科 教授
・2018~:神戶学院大学栄養学部 教授
・2023~:静岡県立総合病院リサーチサポートセンター 臨床研究部長

今回、夏バテと症状が似ている貧血についてお伝えした。夏は汗をかくため貧血が起こりやすいことを覚えておき、不調を感じたら早めに医療機関を受診してほしい。また、夏の貧血予防には『鉄』や『ビタミンB12』を摂取できる食事や、サプリメントを上手く活用することを心がけることが大切だ。これからますます暑くなり夏本番を迎える。体調に気を付けて元気に夏を乗り越えよう。

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