工務店の9割が「住宅保証を経営戦略に」 10年から20年へ広がる“安心競争”の最前線
- 2025/10/15
- ライフスタイル

住宅購入者の意識が変わりつつある。かつては「価格」や「デザイン」が住宅選びの決め手だったが、近年では「長く安心して住めるかどうか」、すなわち“保証の充実度”が大きな判断材料になっている。住宅の寿命やメンテナンスコストへの関心が高まる中で、保証制度は単なるアフターサービスではなく、信頼の象徴として機能している。こうした流れを受け、工務店側でも保証を営業戦略の一環として捉える動きが広がっている。消費者からの安心感を得るために、10年を超える長期保証を検討する企業も増えているが、制度の導入や維持にはコストや体制の課題も少なくない。
そこで今回、株式会社住宅あんしん保証(https://www.j-anshin.co.jp/)は、工務店の経営層・経営企画部門・営業責任者を対象に「工務店における『住宅保証期間・住宅保証戦略』の現状と課題」に関する調査を実施した。
工務店の規模と、保証をめぐる経営意識

今回の調査に回答した工務店のうち、「9人以下」が18.5%、「10〜29人」が19.5%、「30〜49人」が16.9%で、全体の半数以上を中小規模の事業者が占めた。一方、「150人以上」の比較的大規模な工務店も20.1%にのぼり、幅広い層の声が集まっている。この結果から、住宅保証が企業規模を問わず関心を集めるテーマであることが分かる。特に地域密着型の中小工務店にとって、保証の信頼性は顧客からの評価を左右する重要な要素となっている。また、「住宅保証を経営戦略上どの程度重視しているか」という問いには、「とても重視している」が41.3%、「やや重視している」が49.6%と、9割以上が“重視している”と回答した。
保証を単なるアフターサービスではなく、企業ブランドや顧客満足度を高める戦略的要素として位置づける姿勢が明確に表れている。業界全体が、保証を“信頼を築く経営資産”として再認識し始めているといえるだろう。
法定10年を超える保証が広がる一方、目的は“信頼の獲得”に

次に、各工務店が標準として設定している新築住宅の「初期保証期間」について見てみたい。「10年(法定保証)」が42.6%と最も多く、依然として法定基準が中心である。しかし、「20年」(28.1%)、「30年」(22.7%)と回答した工務店も多く、10年を超える長期保証を導入する動きが全体の約半数に達している。この傾向は、保証期間の長期化が一部の例外ではなく、業界全体に広がりつつあることを示している。また、保証を延長する狙いとしては、「契約率の向上」(47.6%)が最多で、「顧客満足度の向上」(43.8%)、「競合との差別化」(43.5%)が続いた。
保証を販売促進やブランド構築の要素として捉える工務店が増え、“信頼の可視化”として保証を活用する流れが強まっている。長期保証は単なる制度ではなく、顧客との長期的な関係を築くための手段へと進化しているといえるだろう。
受注に直結する「保証の説得力」——営業現場での実感値

住宅保証は、顧客の信頼を得る要素であると同時に、実際の受注にも大きく影響している。調査によると、「保証内容や期間が受注に影響している」と回答した工務店は83.3%にのぼり、そのうち「とても影響している」が27.8%、「やや影響している」が55.5%を占めた。わずか2.0%のみが「まったく影響していない」と答えており、保証が営業現場に欠かせない要素となっていることが分かる。
さらに、「保証を強調して提案したことで受注につながった経験がある」とした工務店は約8割に達した。顧客が“保証=安心の証”と捉える傾向が強まる中、保証を明確に伝えることが成約率向上に直結している。
いまや保証は、施工後のサポートにとどまらず、「契約を後押しする説得力」として営業戦略の中核を担っているのである。
高まる顧客関心と、導入を阻む「現場の壁」

住宅保証を長期化するうえで、工務店が直面する課題は少なくない。調査では、「コスト負担」が最も多く47.9%、次いで「手続きや仕組みの複雑さ」(42.0%)、「検査・点検などの要件」(42.0%)が並んだ。長期保証には定期点検や報告書作成などの手間が伴い、特に中小工務店にとっては大きな負荷となっている。さらに「社内体制や人員不足」(30.5%)を挙げる声も多く、制度整備だけでなく人的リソースの確保も課題である。
一方、顧客の関心は確実に高まっている。「保証期間に関する質問を受ける頻度」は、「非常に多い」25.4%、「やや多い」53.1%で、約8割が“保証について問われることが多い”と回答した。需要が高まる中、現場の負担をいかに軽減し、持続可能な仕組みとして保証を運用できるかが、今後の競争力を左右する鍵となるだろう。
保証強化は“攻めの戦略”へ ブランド価値と信頼構築の鍵に

住宅保証をどこまで拡張すべきか——その問いに対し、多くの工務店が前向きな姿勢を示している。調査では、「すでに検討している」が43.0%、「積極的に検討している」が19.1%で、全体の6割超が長期保証を視野に入れている。「条件次第で検討する可能性がある」(31.5%)を含めると、実に9割が長期化を否定していない。長期保証はもはや特例ではなく、業界全体が共有する次のスタンダードになりつつある。また、保証強化によって期待する成果としては、「ブランドや信頼性の向上」(43.3%)が最も多く、「顧客との長期的な関係づくり」(37.9%)、「紹介増加」(36.2%)、「リフォーム受注増」(34.4%)が続いた。
保証を“安心の提供”にとどめず、“経営資産”として活用しようとする意識が広がっている。品質と信頼を可視化することで、価格競争に左右されない“選ばれる工務店”を目指す流れが加速しているといえるだろう。
調査概要:「⼯務店における『住宅保証期間‧住宅保証戦略』の現状と課題」に関する調査
【調査期間】2025年9⽉9⽇(⽕)〜2025年9⽉11⽇(⽊)
【調査⽅法】PRIZMA(https://www.prizma-link.com/press)によるインターネット調査
【調査⼈数】591⼈
【調査対象】調査回答時に⼯務店の経営層‧経営企画部⾨‧営業責任者と回答したモニター
【調査元】株式会社住宅あんしん保証(https://www.j-anshin.co.jp/)
【モニター提供元】PRIZMAリサーチ
業界の転換期に問われる、“保証を文化にする”という視点
今回の調査から浮かび上がったのは、住宅保証を「販売の付帯要素」ではなく、「信頼を築く中核的な価値」として捉える業界の意識変化である。多くの工務店が保証制度を経営戦略に組み込み、長期化や体制強化を検討している背景には、顧客の価値観の変化がある。人々は“安く建てる”よりも“安心して住み続けられる”ことを重視するようになり、企業の姿勢そのものが選択基準になりつつあるのだ。とはいえ、現場には依然としてコスト負担や人手不足といった課題が存在する。保証の仕組みを整えるだけでなく、それを持続可能な形で運用できる体制づくりが欠かせない。ここにこそ、制度設計の知見と現場運用力を兼ね備えたサポートの必要性がある。住宅保証のあり方は、これからの住宅産業が「どれだけ人と暮らしに寄り添えるか」を映す鏡でもある。
“保証の強化”はゴールではなく、“信頼の文化”を築くためのスタートラインだ。工務店一社一社の取り組みが、これからの住まいの安心基準を形づくっていくことになるだろう。